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雨はいつまで降り続ける

経産省の北畑事務次官が以下の発言をしたそうで:
・デイトレーダーは最も堕落した株主でバカで浮気で無責任
・無責任、有限責任で配当を要求する強欲
・そんな連中に議決権を与える必要はない。
・スティールは株主と経営者を脅すという重罪を犯している

最近日本の経済、株式市場、経営者に対する私の絶望をさらに強める発言をしてくれています… 北畑という人間は日本をどうしたいのでしょうか。社会主義にでもしたいのでしょうか。それとも役人と経営者が支配する国にしたいのでしょうか。

「株主資本主義」という言葉がありますが会社は株主のもの以上でも以下でもないというのは、「主義」とかイデオロギーではないと私は思うのです。金を払った人間に所有権が移転するだけなのですから、当たり前の原理原則であって誰にもこれを侵す権利はありません。株主資本主義ににた言葉でグローバリズムとか、米国流資本主義の押しつけとか言う人がいますが、私はこれこそがイデオロギーだと思います。そうしたイデオロギーを持った人がよく使うのが「ステイクホルダー資本主義」という言葉です。株式会社も法人として社会で営業を行い利益を得ようとする以上、自分の周囲に対して敵対的な行動をとることはレピュテーションを落として営業活動がままならなくなり、利益も上がらず株主に何の還元もできなくなります。自ずとある程度は自制的な行動をとらざるを得ませんし、社会に害を及ぼす営業活動には法による規制がかけられることでしょう。しかし、だからといって株式会社の所有権やそれに対する影響力の行使権について、経営者・コミュニティ・従業員、政府といったステイクホルダーと株主が同一視され、株主以外の主体が株主に帰属するはずの権利や利益を当たり前のようによこせというのは、何の法律で担保されているわけでもない、犯罪にすら等しい行為だと思います。

株主の権利が平気で阻害されてしまうとわかっているのなら、誰も出資なんかしようとしなくなり、イノベーションも発生せず、雇用も創出されず、結局社会に対する活力の低下という形で帰ってきて、誰も得をせず損をするだけの結果にしかなりません。そんな結果を誰が望むのですか。

最近の日本の株式市場が冴えないのは、世界経済の不透明感によるところもありますが、日本市場の場合は経営者の怠慢が最大の要因であると思います。経営者というのは資本主義のシステムの中では株主のエージェントにすぎない存在です。株主が出資をするがデイリーでのオペレーションは無理なので経営者を雇い、株主のエージェントとして日々の経営を委託しているにすぎず、経営者は株主に対してfiduciary dutyをおい、株主の利益の最大化を目指します。アメリカの場合はビジネススクールでこの基本原則をいやというほど叩き込まれますので、経営者でなくとも経営者は株主のエージェントであり彼らは株主のために働く存在であると認識されています。一方で日本ではファイナンスやコーポレートガバナンスを米国ほど学ぶ機会も多くはないためかこの原理原則が通用しない場面が多いです。

日本の経営者の株主に対する不誠実のもう一つの要因は経営者がプロの仕事ではなく、サラリーマン双六の上がりのポジションにすぎないからだとも私は思います。アメリカでは経営者という「職業」が存在し、パフォーマンスの悪い経営者は株主により解雇されても市場には経営者のプールが存在し、株主は自分の会社をまかすに足る経営者をそのプールから見つけてくることができます。株主と経営者の間の利益相反というエージェンシー問題はアメリカでも議論されますが、それでもアメリカの経営者はドライな人間が多く、自分の経営する会社の売却に抵抗感がないのは明らかです。アメリカではありませんがある欧州の企業の経営者が先日の第4四半期の決算発表の場において、「M&Aについてはオープンなスタンスだ。我々が買うにせよ、我々が買われるにせよいずれの場合でもだ。」と発言していました。

翻って日本型の経営者はその会社に30年以上つとめ、その人間の得意分野でパフォーマンスをあげるだけではなく、いろいろな政治的闘争をくぐり抜けた人間に与えられる「栄誉」といったポジションという意味合いが強いのでしょう。経営者への階段を駆け上がる過程で、経営者としての訓練を受けたわけでもなく、株主という存在を意識したことある人など少ないでしょう。そういう経営者は自ずと守るのは自分のジョブセキュリティなりプライド、そして彼に仕える部下である従業員や、利害関係のある昔からのなじみの取引先は真っ先に思いつくが、特に日本という市場ではあまり声を上げることのない株主と言う存在は経営者に意識されることはないでしょう。その会社は株主がリスクをとって資金を出した結果であるはずなのに。そう考えると彼らが買収防衛策をこぞって導入するのもわかりますよね。会社を売却することにより株主は利益を得ることができても、経営者はせっかく長年苦労して築き上げた地位が買収により一夜でなくなってしまい、買収されればなじみの取引先の営業活動にも影響が出るし、従業員も新会社で冷遇されるかもしれない。案外そういうくだらない理由で株主のモノであるはずの株式会社を私物化し、株主の利益のならない行動をとり続けているのでしょう。

キヤノンという会社を例にとってみましょうか。この会社は総資産の25%を現預金として抱え込んでいます。企業の経営者の役割というのは、バランスシートの右側にある負債や資本という形で資金を調達し、バランスシートの左側にいろんな資産を購入し、人的資産などのバランスシートに乗ってこない資産と合わせて、「運用」してリターンをあげることにあるのです。当然資本コスト以上でという前提条件がありますが。要するに経営者の仕事は「資産運用」なんです。

経営者はリターンをあげるとまずは債権者に弁済をし、次に残余資産を株主に配分して一番濃いいリスクをとったことに対するリワードを与えます。キヤノンがやってることは株主からの資本で利益を上げるまではいいんですが、利益を上げてもそれを株主に還元せず、内部留保としてため込むばかりで経営者の本来の役割であるその内部留保の運用を全く行わず、資産が死なせてしまっている。今目の前にとてもいい投資機会があって、今株主に返すより別の投資に回した方が将来的には株主利益に資するし、自分にはその能力があるというのならそれでもかまいません。キヤノンはその豊富な現預金を活かして戦略的M&Aを検討しているそうですが、いっこうに結実する気配はありません。

本来、資産の25%が流動性預金っていうのはもはや経営者としての役割を放棄しているとしか言いようがありません。現預金からのリターンはリスクフリー程度でしかなく、その分ROAもROEもダイリューションしてしまうのですから。例えば我々投資顧問が資産の25%を現預金として「死なせて」いたら受益者から非難囂々。私の役割は「株式の運用」であって、「ちょっと株式危ないから現金でおいておくね」なんてのは責任の逸脱になります。そういう判断は資金のどれくらいを外国株式の運用に回す、というアセットアロケーションを行う人間の判断で、我々株式運用部隊は、いったん運用金額が確定したらその金額すべてに責任を持ってできる限り顧客資産の成長に寄与するように株式市場を前に努力を尽くします。

今必要のない資金であれば株主に早急に返すべきでしょう。キヤノンのバランスシートでくすぶっているよりも、株主により新たな投資機会に振り向けられる方が社会全体の便益のためでもあると思います。

キヤノンは無駄な資金は抱えずにバランスシートをできるだけ効率的に維持し、戦略的な投資機会を見つけたらそのときに銀行や資本市場からファイナンスをすればいいだけの話です。キヤノンほどの会社であれば資金が必要なら銀行も資本市場も喜んで金を出します。

キヤノンの経営者である御手洗さんという人は意味不明な財界活動ばっかやって、株主にも報いず、労働者にも報いず、さりとてたぶん彼自身の報酬もグローバルベースでの比較では雀の涙程度なのでしょう。いったい彼の存在意義とは何なのでしょうか。たぶん彼がいなくてもキヤノンは世間的な意味での「エクセレントカンパニー」であり続けることができるでしょうし。

「ホームカントリーバイアス」という言葉があって、日本の年金や退職金の運用はなんだかんだでJGBと日本株が大半を占めています。つまり日本の経営者のサボタージュは日本国民・労働者に対する裏切りでもあるんです。それに気づかず、村上をつぶした日本のレベルの低いメディアや国民の声は結局は自殺行為に過ぎなかったと私は思っています。そしてそれを知っていながら経営者の犯罪に荷担している我々年金業界の罪も重い。

日本株は市場全体がバリュートラップに陥っていると私は思っています。確かに割安です。収益力の見通しに比して売られ過ぎです。でも投資したいと思わないから割安のままこれから放置されることになる。人口減が見えてきて日本という国やシステムそのものの将来に対する悲観もあるでしょうが、バリュートラップの要因が日本の経営者の株主軽視にあるのは明らかです。株主の権利が軽んじられるとわかっていて投資したいと思う人間などいません。

そんな中での経産省のトップのあの発言。彼は経営者というステイクホルダーを守りたいようです。彼の東大時代の友人を守りたい、案外そういう非常に下らないムラ意識に基づく発言なのでしょう。「日本型」経営者をのみを守ることが日本全体の公益に資することになるとは私はとても思えません。

貴重な資本を浪費し、効率化を阻害している経営者と公務員が今の日本人に対する最大の敵だと私は本気で思っています。



経産次官「デイトレーダーはバカで無責任」 講演で発言

2008年02月08日03時05分

 経済産業省の北畑隆生事務次官が講演会で、インターネットなどで株売買を短期間に繰り返す個人投資家のデイトレーダーについて「最も堕落した株主」「バカで浮気で無責任」などと発言していたことが分かった。北畑氏は7日の記者会見で発言内容を認め、「申し訳ない」と陳謝した。

 講演会は1月25日、都内のホテルで開かれ、経産省所管の財団法人・経済産業調査会が主催。企業関係者ら約130人が無料で参加し、北畑氏が買収防衛策などをテーマに約2時間話した。

 北畑氏はデイトレーダーについて「経営にまったく関心がない。本当は競輪場か競馬場に行っていた人が、パソコンを使って証券市場に来た。最も堕落した株主の典型だ。バカで浮気で無責任というやつですから、会社の重要な議決権を与える必要はない」と発言。デイトレーダーに適した株式として、配当を優遇する代わりに議決権のない「無議決権株式」を挙げ、上場解禁を唱えた。

 米系投資ファンドのスティール・パートナーズを名指ししたうえで、「株主、経営者を脅す」と発言。「バカで強欲で浮気で無責任で脅す人というわけですから、七つの大罪のかなりの部分がある人たちがいる」などと話した。

 北畑氏は朝日新聞の取材に対し「激しく言い過ぎたかもしれない。講演会で眠い目をした人に難しい話をしているのだから、少しはおもしろく言わないと聞いてくれない。適切ではなかったが、そこだけ取り上げられるのは本意ではない」と語った。
by linate | 2008-02-09 16:06 | マーケット雑感


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