セルサイドアナリストの悩み

欧州では既往投資先企業、新規投資先候補企業を相当数自分の足でまわってきました。その一部の企業についてはアポ入れをお願いした証券会社のアナリスト、いわゆるセルサイドアナリストと訪問しました。

彼は年も近いこともあって、投資アイデアに限らず、結構ざっくばらんに自分のキャリア観や今のお互いの仕事についていろいろと、移動中や食事中に話しました。その中で彼のチームが新たなメンバーを迎えることが出来たという話から、最近いかにセルサイドアナリストのリクルーティングに苦労しているか、という方向に話が展開していきました。

現在3人でまわしている彼のチームには、以前はさらにもう1人在籍しており総勢4人でセクターをカバーしていました。その1人が退職して以降1年程度の長きにわたり、募集を試みるもなかなかいい人材が確保できずに苦労したそうです。その最大の理由はセルサイドアナリストという職業がかつてほど「セクシー」な仕事ではなくなってしまったからというのは彼の分析。

確かに、まず報酬面から言えば、投資銀行業務との兼務が禁止され、かつてのセルサイドアナリストの報酬の相当部分を占めていた投資銀行部門からの報酬が一切なくなり、バイサイドアナリストよりはまだ高いとは言え、金融業界の中でもセルサイドアナリストの報酬水準はさほど高いものではなくなっています。投資銀行部門の報酬なき今、セルサイドアナリストとしての実力=顧客からの支持の高さが彼らの唯一の報酬の評価基準になります。具体的には、Institutional Investor等のアナリストサーベイでの高い順位や、顧客であるバイサイドのブローカーレビューでの高い評価を得ることがセルサイドアナリストが高い報酬を得るために最終的に必要な要素になります。そのためには、興味深いレポートを出すだけでは不十分です(ベテランにはそれだけでやっている職人肌のアナリストもいるにはいます)。キーとなるバイサイドのFMやアナリストに頻繁に電話をかけてアイディア提供し、「マーケティング活動」と呼ばれる顧客を訪問してのプレゼンテーションを行い名前を売り、顧客からの情報提供のリクエストがあればきめ細かくそれに応じるなどもこなさなければなりません。それをこなした上で、バイサイドを上回るクオリティでのリサーチ活動を行わなければ、そもそもの彼らの存在意義が問われることになります。まとめるならば、リサーチ+営業+クライアントサービスの3つが彼らの業務の主要な柱になります。これら全てを高いクオリティでこなそうとすると、どうしても労働時間は相当にdemandingなものになってしまいがちです。

要するにセルサイドアナリストは、報酬面でかつてほどの魅力が失われてしまった中、投資銀行業務がなくなったものの営業活動へのエクスポージャーが増えたことで労働環境の厳しさは相変わらずです。そうした環境の変化がセルサイドアナリストのモチベーションを失わせることになり、セルサイドから去ってしまうアナリストを相当見るようになったとは同行してくれたアナリストの話。セルサイドを去ってどこに行くのかというと、ヘッジファンドなどのバイサイドに「顧客」の立場に転身したり、アナリストそのものを廃業して企業のIR部門などが主な行き先だそうです(確かに、アナリスト出身のIRはアナリストがどんな情報を欲しているかを熟知しているので話が早いことが多く、有り難い存在ではあります)。確かに私もセルサイドのリサーチ以外の活動に対するエクスポージャーに対する不安があり、セルサイドとバイサイドの両方のオファーをもらったとき、バイサイドを選択することになりました。

しかしながら、一般的にはセルサイドのアナリストはリサーチの品質の維持のために担当している企業数はバイサイドのアナリストに比べて少ないことから、個別企業の知識については一般的にはバイサイドアナリストよりも強いように思います。顧客からの厳しい評価にもまれて生き残ってきた人については特にそれが言えます。バイサイドでのリサーチ機能の強化により、セルサイドアナリスト不要論もささやかれる昨今ではあります。しかし、それでもある日突然セルサイドのアナリストが本当にいなくなってしまったら途方に暮れるバイサイドは相当いるというのが実感です。バイサイドアナリストの質はセルサイド以上に玉石混合です。私もまだまだ駆け出しのアナリストですので、セルサイドのアナリストの知識に助けられている部分もあるのは事実です。特に私は日本にいながら海外の銘柄をリサーチしていますので、現地の細かい情報はどうしても彼らに頼るところが大きいです。一方で、私のスタンスは自分の投資ストーリーを組み立てるにあたって必要なファクト、データ、インフォメーションを彼らに求めており、彼らの投資判断や投資アイディアは重要視していません(これでも一応アナリストですので…)。

個人的にはセルサイドアナリストの役割が終わったとは思っていません。自分の人生観やキャリア観もあって自分がセルサイドに身を置きたいかどうかは別にして、彼らがモチベーション高く仕事をしてくれるよう、満足行く報酬を得て欲しいと思います(実際には収益に対する明確的な貢献の不明な彼らは、投資銀行内部ではコストセンターと見なされることもあるらしく、なかなかそうはいかないようです)。

あんまりセルサイドアナリストのネガティブな側面ばかり書いてしまいましたが、ポジティブな側面も当然あります。個人的に感じるのは以下の点でしょうか。

  • 経営陣へのアクセスがある(弱小バイサイドにとってCEOとの1-on-1は夢のまた夢です)
  • 自分の名前でマーケットに対して意見を発信することができる(その代わりプレッシャーは大きいです)
  • 多くの投資家と接することによりマーケット全体を俯瞰できる(我々は我々とブローカーの意見しか知り得ません)
  • 決算カンファレンスコールで質問できる(表面的にはバイサイドも参加する権利はありますが、質問をしようとしても企業側に無視されます)

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by linate | 2007-11-25 00:30 | マーケット雑感


株屋ですよ。


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